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ま、間に合わなかった…!
急いで仕上げたハロウィンのお話。
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「トリックオアトリート!」
集会室のドアが、勢い良く開き
マネージャー達が飛び出すと、イナズマジャパンや
海外から遊びに来た面々は、どよ、と大きくざわめいた。
「だ、だから、やめようって言ったのに~」
「何言ってるんですか!木野先輩!とってもかわいいですよ!」
にこ、と笑う彼女も相当にかわいいが
なんだか、ハロウィンの仮装とは違う、と思いながら木野秋は
真っ赤になった頬を、もふもふの白くて大きな動物の手袋がハマった手で顔を覆った。
「な、なんだ、マネージャー達!一体それは何の恰好なんだ?」
王子様風の衣装の風丸が幾分頬を赤く染めながら秋を見やる。
その言葉に、秋は、ますます赤くなり俯いてしまう。
その姿に、吸血鬼の一之瀬は秋を凝視したまま固まってしまっている。
「カズヤ、大丈夫か?」
狼男の衣装のマークとディランが、一之瀬に声をかけたが
彼は頬を染めたまま、まだ固まっている。
マネージャー達はセーラー服に、大きめのベージュのカーディガンという出で立ちだ。
そのスカートはチェックで、いつもの制服以上に短い。
すらりと伸びた脚にはニーハイの黒のストッキング。
そして春奈の言うところの「仮装」は、それぞれに違っているのだ。
春奈は、犬の耳に、くるりと円を描く白のしっぽが揺れていた。
秋は、ぴょこんと伸びたウサギの耳に、白くてふわふわのおおきな丸いしっぽ。
夏未は、三角の黒い耳に、長い猫の尻尾。
冬花は、まるい茶色の耳と、ちょこんと揺れる熊のしっぽだ。
セーラー服にニーハイ、いつもよりも短いスカートというだけでも、14歳の健全な男子には
とてつもない刺激だ。
さらに耳としっぽが、なんだかいけない物を見たような背徳感をかもしだしている。
イナズマジャパンの面々は、激しく動揺しながらも
夏未が主催するパーティが、にぎやかに始まった。
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大騒ぎの面々は、それぞれに帰途につく。
秋も片づけを終わらせて、いつものように2人と共に帰り道を辿っていた。
月明かりに照らされたいつもの川沿いの道は、夜だというのに思ったよりも明るい。
そこをゆっくりとした足取りで歩く三人の影が伸びて、揺れている。
ミイラ男の仮装の土門は、頭の後ろで手を組んで空にある明るい月を見あげた。
「なあ~、一之瀬。今日は全然秋と話してなかったな」
そういえば、とつぶやいて。土門は一之瀬を横目で見る。
突然話を振られた一之瀬は、驚いたように目を見開いて背の高い幼馴染を見上げた。
「そ、そんなことないけど」
「う~ん…そう言われれば、そうかも。」
口元に手をあてた秋は、まだあのウサギのセーラー服のままだ。
そんな彼女に目をあわせられないのか、一之瀬はそ、そうだったっけ?と上ずった声で答えた。
土門は一之瀬のそんな様子に、苦笑しながらも秋に目を移した。
「…まあ、一之瀬の気持もわからなくはないな」
「え?」
かなり俺らには刺激が強いよ、それ。と彼女のお尻の上で揺れているまるいふわふわを
指さしながら、土門はニヤリと笑う。
その指摘に、秋は月明かりの中でもはっきりとわかるほど、頬を赤く染めた。
「か、からかわないで、土門くん!」
「いやいや、凄く似合ってるぞ、それ。マークやディランもめちゃくちゃ写真撮ってたしな~」
もう!と秋が怒るふりをして、手を振り上げてみても、土門は変わらずに笑ったままだ。
秋はそんな土門を見てすこし頬を膨らませる。、
「だって、…この衣装を用意したの、音無さんと夏未さんなんだもん」
「へえ~。音無やるなあ!な、一之瀬!」
「えっ!あ、ああ、うん。」
まだ惚けているような一之瀬に、土門は肩をすくめる。
しょうがないな、というように一之瀬の肩をぽん、と叩くと
じゃあ、俺、ここだから。と角を曲がりながら手をひらひらと振って歩いて行ってしまった。
「また明日ね!」
土門は。秋の言葉に振り向かずに手を大きく上げて一振りすると
軽い足取りで、歩いて行った。
「あー…あの…。アキ?」
「ん?」
土門に手を振っていた秋は、後ろにいた一之瀬を振り返る。
月明かりとは逆光で、彼の表情は見えない。
「ちょっと、そこでジュース買って、座らない?」
「?どうしたの、一之瀬くん?」
「…今日は、月が綺麗だしさ」
その言葉に空を見上げた、秋は
一之瀬ににっこりと笑いかけると、明るい声でいいよ、と答えた。
一之瀬が秋にジュースを手渡すと、秋はありがとうと笑う。
ふたりは河川敷のサッカーコートの傍らにあるベンチに腰掛けた。
あたりは街中とは思えないほどに静かで、虫の声も聞こえてくる。
あたたかいカフェオレの缶を、両手でぎゅっと包むと
秋は体を小さく震わせた。
秋の夜風が想った以上に、冷たい。
それに気付いた一之瀬は、仮装で着ていた吸血鬼のマントを
バサリと音をたてて、秋の体にかけた。
「え?」
「着てなよ、ちょっとの間」
「で、でも。一之瀬くん、寒いじゃない」
「オレはヘーキだよ」
に、と笑うと、一之瀬はすぐに照れたように軽く目を伏せて
それに、秋のその格好、オレには刺激が強いから。と
小さくつぶやいた。
秋はその言葉に、どきりと胸を鳴らす。
同時に頬が熱くなって、慌てて目をそらしながらありがとう、とつぶやいた。
「アキ」
「ん?」
「昔はさ、三人でハロウィンやったよね。近所回ってさ」
「ああ、うん!私が魔女、一之瀬くんが狼男で、土門くんがミイラ男!」
そういうと、一之瀬はぷっと吹き出して、あいつ変わってねーと笑う。
彼の笑顔につられ、秋も一緒に笑った。
「あんときは面白かったよなー!」
「うんうん!土門くんとか、間違えちゃって」
「トリックオアトリーック!ってさあ」
「結局、その家のおばあさんにに怒られちゃって、お菓子、貰い損ねたんだよね」
面白かったよね、と秋が笑うと、一之瀬はその表情に目を細めて、うんと小さくうなずいた。
「…アーキ」
「んー?」
名前を呼ばれて顔をあげれば。一之瀬の茶色の目が自分を覗きこんでいる。
またふいに暴れた心臓に、秋は一瞬体を硬直させた。
「トリックオア、トリート!」
「…え?」
「だから、お菓子くれないと、いたずらしちゃうぞ」
「え、ええ?ちょ、ちょっとまって…!」
いたずらっぽい笑顔で更に接近して腕を伸ばす彼から、すこし身をそらして
秋は自分のカバンを探る。
さっきのパーティで配ったお菓子の残りが、残っていないだろうかと期待を込めて。
だが、その期待はむなしくから回る。
先ほど全て配ってしまったようだった。
「え、えと…もう、お菓子は…」
「なに?無いの?」
笑いかける一之瀬をまともに見る事もできずに、秋は俯く。
それでもさらに、何も構わずに近づく一之瀬から逃げられず
とうとう秋は、一之瀬の腕につかまってしまった。
「あ、あのう…」
「じゃあ、いたずらさせてもらっちゃおうかな」
「ううう」
嬉しそうな声のトーンに、秋の頬は真っ赤に染まる。
どうしよう、と彼女が想っているうちに、一之瀬が秋の髪にキスをした。
そのキスはゆっくりと、頭の上から、耳、首元へと降りてくる。
自分を縛る腕と、自らの混乱で秋は動けない。
どうしよう、どうしよう、と思っていると
彼は、抱きしめていた腕をといて
秋の手をそっと取った。
「オレは、吸血鬼だからね」
「…え?」
どういう意味?と問う間もなく
彼の唇が、秋の手首の内側に口づける。
少しだけ、チクリとした痛みにビクリと体を震わせると
一之瀬は目を小さく見開いて、秋を見つめた。
彼がそっと手を離して、秋がそこに視線を落とすと
そこには赤い印があった。
ドクドクと心臓の音がうるさくて、秋はちいさく震える。
きっと頬は真っ赤で、耳まで熱い。
それでも、月明かりを弾く目の前の、跳ね髪と茶色の目を持つ
幼馴染から目をそらせなくて、秋は息ができないような錯覚に陥った。
「ちょっとだけ、独占したっていいよね?…アキ?」
でも、こうすると隠れちゃうけど。
そう言いながら、一之瀬は秋のブラウスの袖を軽く引っ張った。
「ウサギさんが狼に食べられちゃうまえに、吸血鬼にも襲われちゃうんだよ?」
「一之瀬、く…」
「家まで送るよ。途中でお化けに会わないように」
一之瀬は立ち上がると、秋に手を差し出して笑った。