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未来設定のお話です。
風丸さんがでてきますが、カプとしてではなくあくまで
親しい友人としてです。
そして、一之瀬と土門がでてきません(;;
それでも許して下さる方はどうぞですv
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世界は終わる
私の手で
何よりも愛したこの空間を
私は、自分の足で
ワールドイズエンド
青い空に大きな入道雲がたち現れている。
窓枠に切り取られているその景色は、まるで一枚の絵のようだ。
雷門夏未は、理事長室の大きな窓から暑い外を見やって、手元の資料をぱたりと閉じた。
窓から見える校庭には、引退試合はまだだが一線は退いたはずの円堂や豪炎寺らの姿。
相変わらず泥だらけな彼らの前にはサッカーボールがある。
彼らは、プロへと卒業と同時に進むことが決まっていた。
「…そう、もう、決めたのね。」
そんな彼らの姿を目の端にとどめながら
長い髪を翻し、夏未は執務机の前に佇む3年来の親友を見やった。
「うん。…この夏休みが終わったら、あちらの大学に入学するの。」
夏未の言葉に、ぼんやりとグラウンドを見つめていた秋は、友人に向き直る。
答えながら秋は、戸惑い気味に自分を見る夏未を安心させるように笑いながら首をかしげた。
「そんなに急いで行かなくてもいいのではなくて?」
「…そう思ったんだけど…、あちらのテストにせっかく通ったし。…やりたいことも出来たから」
秋はゆるぎない瞳で夏未をみると、そのまままた活気にあふれるグランドに目をやる。
彼女の瞳が誰を探しているのかなんて、聞くまでもなくて。
夏未はその事実に胸が痛くなる。
「それに…アメリカには…私を待ってくれている人も、いるし」
一呼吸おいて、つぶやくように発せられた秋のその言葉に、夏未は思わず目を伏せた。
そうか、彼女の中にもう迷いはないのだ。
夏未には、目の前のおとなしい友人の気持が痛いほどに分かってしまった。
「…そう。あなたも、…バカよね」
言外に自分の事も含めてつぶやくと、秋は目を丸くした後に
困ったような表情でクスリと笑った。
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「ふう、これくらいかな」
懐かしい部室の空気の中、秋は額の汗をハンカチでぬぐいながら部屋の中を見渡す。
先ほどの雑然とした惨状をおもうと、ずいぶんましになった。
秋は、繕い終わったユニフォームを丁寧に畳み、ぽんと手を置く。
ぐるりと目をやると部員たちの汗のにおいが鼻をついて
懐かしいようなおかしな気分に、秋は茫然と立ち尽くした。
改めて実感がわいてくる。
ああ、まもなくここを、この懐かしい場所を自分は去っていくのだ。
3年の自分たちは、この学校を卒業という形でここから巣立つと思っていたのに
一足先に自分がここを去るのだとは、思いもしなかった。
アメリカで自分を待つ未来。
そして一之瀬、土門。
秋は全てを心のうちに思い浮かべ、思わず涙ぐんだ。
「…っあ~、ユニフォーム濡れちゃう」
秋はぽたりと落ちたそれを、あわてて手で払うと
体の向きをかえてうつむいた。
実感だ。
体中で今それを感じる。
ああ、そうか。
自分はここを出て行くのだ。
自分で選んで、自分の足で。
「…木野?」
何度目かの涙をすすりあげたとき、ふいに後ろから声がかかった。
驚いた秋は、その勢いのまま後ろを振り向いた。
「っ、…大丈夫か?」
「か、風丸くん」
白いTシャツに短パン姿の彼は、いつもどおりに
青い髪を揺らして、秋を見ていた。
その優しげな目には、あきらかに涙を流す秋を見た動揺が走っている。
「どうしたんだ?」
秋は涙をふくことも忘れて、風丸を茫然と見上げていた。
ああ、そうだ。
この人は、私たちを救ってくれた。
窮地にいた私たちと、共に闘うことを選んで。
「っ、風丸くん…」
「き、木野…!?」
涙が止まらない。いろいろなことが走馬灯のように駆け巡る。
全てが大切で、懐かしくて、愛おしい思い出なのだ。
「こ、これ、少し汗臭いけど…使えよ」
ぐっと目の前に彼のタオルが差し出される。
彼の性格同様、押しつけがましくなく、あくまでさりげないそのしぐさに
秋は泣きながら小さく笑った。
秋はそれを受け取ると、そっと目元に押し当てる。
懐かしい風が薫る気がした。
「どうしたんだ?一体」
風丸は声のトーンを落として、秋を驚かせない為だろうか
優しげに声をかけた。
秋は泣き顔を見られたという恥じらいの気持から、えへへと舌をだしておどけて見せる。
「なんでもないよ、今年、卒業しちゃうんだなと思ったら、ちょっと…」
情けないよね、ごめんね?と顔を上げると
彼の大きな青い目が覗きこんできた。
「…うそつきだな、木野は」
「えっ」
真面目な声と表情に、秋は驚いて彼を見やった。
「いつも、我慢しすぎなんだよ、お前は」
「風丸君…?」
「…円堂のことじゃないのか?」
風丸の目が揺れている。
「円堂」という言葉に、秋の胸の中に強い痛みが走った。
「…久遠監督の、…その」
「違うよ、風丸君」
言いにくそうに、すこし下を向いた彼に秋はきっぱりとした声で返した。
風丸は驚いて顔を上げる。
「木野?」
「…違うよ…違わないけど…、違うの」
「何言ってんだよ」
「円堂くんの事は、今、私がこうして泣いてた事とは関係ないの」
笑いながら言う秋に、風丸は疑問を含んだ視線を投げかける。
気遣いながらも、彼女の真意を探ろうとしているかのようだった。
「結局、いつもお前はそうなんだよ」
「え?」
「…バカだよ、木野は…」
風丸は顔にかかる前髪をかきあげて、改めて正面から秋を見つめた。
「言いたいことがあったら、俺が聞いてやるから。いつでも言いに来いよ」
「風丸君…」
まっすぐに笑顔で言い放つ彼に、秋は圧倒される。
いつもの間にか背も大きくこされて、見上げるほどになった彼は
もう今では立派なサッカー選手だった。
「勉強じゃ、木野には負けるけどな」
ぽかんとする秋ににっと笑いながら、風丸は秋の手から奪ったタオルを乱暴に頭からかぶせた。
「きゃ!」
「ばーか。…無理しすぎなのが、木野の悪いところなんだから。俺たちのマネージャーにはいつも
元気すぎるぐらいでいてもらわないと」
反論しようとした瞬間に、頭の先に温かさを感じて秋は動きを止めた。
「ホント、…馬鹿だよ。」
タオルはやるよ、と声が聞こえ
スパイクの音が、硬い部室のコンクリートをカツカツと踏みしめて
少しずつ遠ざかって行った。
ああ、この音が消えたら。
私のこの時間は、終わる。
迫りくる実感に、秋の中に言葉がわきあがる。
たくさんあるのに、声にするのはこれだけで精一杯。
いつか、いつか
ちゃんとこの気持ちを全て言葉にできたらいい、そう願いながら
秋は震える声を絞り出した。
「ありがとう、風丸君」
「ありがとう、…雷門サッカー部」
「ありがとう、円堂くん…」
タオルは、秋の前のにじんだ世界を、優しくおおい隠してくれていた。
間もなく、夏休みは静かに終わりを告げる。
conception by「うたかた花火」